心の伸びしろ [ 石井琢朗 ]
きょうは、上位戦線にかろうじて踏みとどまっているカープを支えるコーチ、石井啄朗氏のこの本を。
以前、「過去にあらがう」の共著者として登場しているので、フルイニングはさておき、連続試合出場といった感じになってしまったが、こちらにも事情と都合があるのでおゆるし願いたい。
この本は著者がカープで晩年の4年間を送った後に現役引退し、守備走塁コーチとなった2013年に刊行された。
20年間在籍した横浜ベイスターズを追われるように退団し、2000本安打を達成した自由契約選手としてカープに移籍してきた著者の“外様のまなざし”が、カープというチームの魅力を客観的に伝える。
「チームは家族的で、フロントは筋を通すし選手を大事にする。カープに来て本当によかった」と、著者は心底から述懐している。
少し著者の抱くチーム像が美化され過ぎではないかとおもう節もあるが(とくに球団トップに関する評と、選手の扱いについては賛否両論あるだろう)、カープというチームでの経験が著者を変え、成長させたことは疑いがない。
横浜から広島への移籍。そして選手から指導者に—。
その過程で学んだ「心の伸びしろ」という視点。
また「得る」ことから「与える」ことへ心境の変化。
そこへと至る「心の旅路」は、じわじわと感動的だ。
「スキルアップには限界があるが、心の伸びしろは無限だ」
そのことに気づいてほしいと願う著者のおもいは、薄日からのぞいた太陽のように温かい。
指導者として得がたい資質を著者が持っていることは、おのずとにじみ出て来る。
カープの4番はエルからロサリオに変わったが、この本であなたの人生の指針も「得る」から「与える」に変わるかもしれない。
ファンサービスとはなにか?
魅せる野球とはなにか?
「与える」という境地に至った著者は、自己にとどまらず、そのおもいはチームへ、そして球界全体へと広がっている。
この著者の意識、その存在が、カープがまがりなりにも上位で戦えるチームになったことに、大きく寄与していることを疑うファンはいないはずだ。
しかし、これだけしっかりとした自分を持ち、意見があれば誰にでもいうという著者がカープにいるという不思議。
そんなことにおもいをはせながら読んでみると、また味わいはひとしおかもしれない。