このシーズンオフ、カープの球団最高年俸はたてつづけに塗り替えられることになった。

前田健太投手が推定3億円の球団記録で契約更改をしたのが12月24日。その3日後にはメジャーから復帰の黒田博樹投手が4億円で契約し、トップの座は簡単に入れ替わることになった。
前田健太投手は、文字どおりの3日天下。

球団の最高年俸選手は事前に決まっているのが通例で、契約更改交渉のしんがりにおっとり刀でご登場。契約が成立すると記者会見の場でもったいぶって金額をほのめかす、と相場は決まっている。

そのお約束からすれば、前田健太投手が「球団最高額で契約しました」と宣言した時点で、目出たくシャンシャンシャン。そのシーズンのカープの契約は無事終了していたはずだった。

ところが黒田投手の復帰が決まったことで、あらかじめ彼に提示していた年俸4億円が球団最高年俸ということになった。

つまり、前田健太投手との契約交渉を詰める時点で球団側は黒田投手が復帰してくれる可能性は、ほとんど念頭になかったことになる。
交渉にあたった球団本部長が「1%の可能性」と表現していたことからも、それは容易に推察できる。

「カープの年俸総額は20億円に決められている」
これは都市伝説のようにいわれている“定説”だが、このところ現実に20億円前後で推移してきている。

だれがどんな成績を残そうが、何人の選手がブレイクしようが、この金額から逆算して各選手の年俸は決められる。
この20億円は、いつからかひとり歩きをはじめ、ズムスタ移転効果で収益増となっても厳格に守られているようにみえる。

2015年の年俸をみると、新外国人選手を手当り次第に獲得し、若手選手の年俸が軒並み跳ね上がって、大盤振る舞いの印象が強かった。
しかし、しんがりの前田健太投手が契約を終えた時点での総額は結局のところ21億2820万円。
前田投手への“臨時増額分”が1億円あまりと理解すれば、来シーズン分も見事に定額に収まっていたことになる。

ところが、突然降ってわいたように黒田投手が復帰することを伝えて来た。

「帰ってきてくれ」とオファーはしながら「帰ってはこないだろう」と、タカをくくっていたらしい球団側は、あわてたことだろう。

「黒田復帰」は箝口令が敷かれたそうだが、それはメディア対策という側面ばかりか、「黒田からの回答を本当に受け入れていいのか?」その判断をあおぎ、検討する時間にあてられたということもあったかもしれない。

黒田投手の復帰によって、綿密に練り上げた年俸計画は一気に破綻してしまった?

想定もしなかった4億円の余剰出費。
「うれしいを通り越して、怖い」と球団本部長はつぶやいたというが、それはウソ偽りのない実感だったのかもしれない。

しかし、そんな出費は黒田投手の“男気人気”で、さっくりと回収できるだろう。
いや、もし優勝でもすれば隠し金庫にあふれるほどの見返りがあるはずだ。

カープの優勝はもちろんだが、そのことを身をもって知ることになるであろう球団フロントの来シーズンの覚醒にも期待したい。
                   カープ本評論家 堀 治喜

マツダ商店
「カープ本100冊。すべて読んでみた!」より