【送料無料】 逆境を生き抜く力 / 我喜屋優 【単行本】
【送料無料】 逆境を生き抜く力 / 我喜屋優 【単行本】

颱風で開会が順延となっていた夏の甲子園大会が、ようやく初日を迎えた。

参加3917校の頂点に立つのは果たしてどこなのか、そこにいたるまでにどんなドラマが生まれるのか、いまから興味はつきない。

甲子園を勝ち抜いて優勝の栄冠を勝ち取るのは並大抵のことではない。
そこには選手個々の技術とその総体としてのチーム力が問われるのはもちろんだが、一球一球に勝敗の綾が交錯する野球というゲームでは運も大きなファクターとなる。

しかし意外に大切なのがグラウンドを離れた日々の生活の実践であることを、この
「逆境を生き抜く力」は、あらためて教えてくれる。

いうまでもなく高校球児もひとりの人間として朝目覚め、食事をし、他人と接し、社会という枠組みのなかで生きている。
したがって、そのひとつひとつが練習態度に、試合の集中力に、そしてグラウンドでの精神力に直接間接にかかわってくる。

著者は2010年に沖縄興南高校野球部を率いて甲子園の春夏連覇という偉業をなしとげている。
しかし、その偉業をふりかえるのに、景気のいい話はほとんどでてこない。
日々の生活の大切さを論じる記述がほとんどだ。

早寝早起き、食事の大切さ、時間厳守、朝の散歩、挨拶の励行、整理整頓…と、野球本というより道徳教育のそれかと見まがうほどだ。

北海道のクラブチームの監督から38年ぶりに母校の興南高校に転身したとき、部員の日常の生活はまったくなっちゃいなかった。もちろん甲子園など現実離れした遠い話。そのとき興南高校は24年間も甲子園の土を踏んでいなかった。

それが著者が赴任して3か月後には、夏の甲子園の切符を手にしている。
そして3年後には春夏の連覇。
この実績を前に、日々の生活ぶりの大切さを語る著者の“訓示”にはうなずかざるをえない。

スキルは短期間に飛躍的に向上することはない。
しかし身近な生活態度から変えることで、すんなりと甲子園への道が拓けたというわけだ。

「いま逆境にあるひとたちへ」
それがこの著書の主たるテーマでもある。

著者は
“野球不毛の逆境”の地、沖縄の高校球児として甲子園に出場しベスト4まで勝ち上がった。
そして卒業後に大昭和製紙の野球部に籍をおくものの、レギュラーどころか試合にも出られない日々という逆境にさらされることになる。

練習を工夫してようやく試合に出られるようになったと思う間もなく、大昭和製紙北海道に“左遷”されてしまう。
またもや野球不毛の土地。

「雪の中をランニングすると、汗が凍ってツララ状になる。靴ひもが凍って、なかなか解けない。手先や足先は、次第に感覚がなくなってくる」
そんな北海道だ。

しかしその逆境、ハンデの前にひれ伏すのではなく、著者はそれに立ち向かい、逆に喜びにかえるという魔法を発見する。

雪が積もったら屋外で練習なんかできない。そんな常識なんかクソくらえだ。(著者はこんな下品な表現はしていないことをお断りしておく)
雪が積もれば雪かきをして練習をする。雪かきも立派なトレーニングだ。
ランニングだって守備練習だって、長靴を履けばできる…と。

長靴履いてのランニング。なんとも愉快ではないか。
一般的にトレーニングは効果を増すために、わざわざ負荷をかけてする。
しかし“逆境の北海道”は、はじめから負荷だらけなのだから恵まれている。
とまあそんな発想だ。

その昔「でっかいどー、北海道!」なんていう、なんともな投げやりなコピーがもてはやされたことがあったように記憶しますが、それにならって
「ぎゃっきょーじゃー、北海道!」

「逆境を、逆手にとろう!」ということです。

こんな著者に引っ張られるように、ユニークで効果的なトレーニングを積んだ大昭和製紙北海道は1974年に都市対抗野球大会で優勝。北海道にはじめて黒獅子旗を持ち帰っている。

そういえば“野球不毛の地”だったはずの北海道、近年は高校野球でも目覚ましい活躍ぶりだ。駒大苫小牧が甲子園で優勝したりと、覚変は著しい。
その野球史の変遷の裏に、この著者がいたとは…。

逆境にあるものに勇気と希望を与えてくれる同書だか、野球不毛の地だった沖縄および北海道がいかにして“野球王国”へと変貌したか。
そんなアマチュア野球概史を読んでいるかのような醍醐味も味わえる。