タグ:江川卓



3回目のきょうは、江川問題のたられば。

ドラフト会議も終わって、新人選手が新天地での活躍に胸ふくらませ、ファンは彼らに夢をたくし。
ストーブリーグがにぎやかになってまいりましたが、ドラフトといえば、江川卓事件

本人はもういい加減にしてほしいとおもってるでしょうが、やっぱり出て来てしまいます。

もし全盛期の高校からそのまま阪急に入っていれば…
もし阪神に入っていれば…
中国鍼さえ打たなければ…
オールスターで最後のバッターにカープを投げさえしなければ…

もう「たられば」の尽きせぬ泉です。

そして話題は江川問題を裁いたコミッショナーから黒い霧事件へと展開し、さらにホリエモンと球界再編問題へ。

ついにはJリーグにまで、たらればボールは飛んで行ってしまいました。

 






広島野球ブックフェアで、愉快なトークを披露してくれた広尾晃氏が上の新刊を上梓。

またやってくれました。

「プロ野球解説者を解説する」につづいて、今回は「たられば本」。野球を語るにタブーとされる「たられば」にあえて、正々堂々と、真っ向から挑戦してくれています。

いつから野球を語るに「たられば」がご法度になったのか存じあげませんが、あえていえば野球を語るには「たられば」しかないのですね。
そもそも野球は「たられば」で成り立っているゲームなんですから。

先頭バッターが塁に出「たら」、バントかヒットエンドランか?
2ストライクにな「れば」、フォークボールで勝負!

かように「たら」と「れば」をあらかじめ予測し仮説を立てて準備するもの。
また「たられば」を想定しながら局面、局面に対応するわけですね。
そんな野球というゲームを楽しむのに「たられば」は無しは、無しでしょ。

プレイする当事者が、わが凡プレイを「たられば」で言い訳するのはまずいでしょうが、ファンが「たられば」で野球を語るのは常道なのです。
現実「たられば」なしで野球を語ることは不可能なんですから。

ちなみに同著にあげられた63の「たられば」のいくつかを-

「江川卓が、高校からプロ野球に入っていたら」
これなんか、野球ファンの間では古典的な「たられば」ですよね。

甲子園での彼の怪物ぶりを目にしながら、この「たられば」をおもわなかったファンがもしい「たら」、お顔を拝見してみたいものです。

「田淵幸一が巨人に入団していたら」
この「たられば」は、たぶんご本人の大好物。いまでもときどき想像してみてはため息をついているかもしれません。

「WBC2009年日本代表が1年間大リーグで戦ったら」
これなんか想像を楽しむというより、実現してほしい「たられば」です。

あくまでも「たられば」ですから、予測はいかようにもできるもの。
しかし広尾さんはお得意のデータを背景にして予測しているのがミソ。それなりの説得力があるのですね。

それでも「いやいや、もっと活躍した」とか「それは過大評価」とか異論もあるのは著者も承知。その異論から議論が広がって野球のファンタジーが共有してもらえれば本望と「おわりに」もあります。

でもそんな謙遜せずに、
この本をきっかけに「たられば」に市民権を!
くらい言いきっちゃってもいいんじゃないでしょうか。
また、そうなってほしいものです。

こんど機会があったら、もしお会いできれば、広尾さんとまた「たられば大放談トーク」でも愉しみたいものです。







 

プロ野球解説者を解説する
プロ野球解説者を解説する

いよいよ広島野球ブックフェアのトーク第2弾、「『プロ野球解説者を解説する』を解説する」の最終回です。  

 ゲスト 広尾 晃氏(「プロ野球解説者を解説する」著者)  
 ホスト 堀 治喜(広島野球ブックフェア実行委員会) 
 司 会 渡部裕之氏 

〈前回のつづき〉

堀  ぼくは前田の本を書くとき、彼の野球人生の中でもひとつの大きなエポックだっ
   た、あの東京ドームでの… 

広尾 はいはい、あれね。ありましたね。 

堀  エラーしたときの。 あのときの映像をユーチューブをあらためて見たんですね。
   エラーして前田智徳は号泣した。 
   あと8回だったかな、(ミスを挽回する)勝ち越しのホームランを打った。
   そのときに(解説の)江川(卓)が「ことばが出ませんね」といったのよ。 
   で、それを受けて掛布(雅之)が「いやー、入団3年目の選手が、こんなことして
   くれるんですから…」と、野球っていいなっ、と。

   あのとき前田がチォンボした。ホームラン打った。すごいことやってんだけど、あ
   れをうかつなアナウンサー、解説だったらあそこまで感動をなぞれない。 
   ションベン行きたいばっかりの解説者とかじゃ。(笑

広尾 そうですよね。 

堀  あの江川と掛布の掛け合いが、それからの前田智徳を決定づけたといっても過言で
   はない。(笑 
   それほどのインパクトがあった。

広尾 そうですよね、あのころの江川さんはよかったんですよ。 

堀  あのころの?

広尾 掛布さんもよかったですよ。あのころはふたりとも。 
   まだ江川さんがフリーで、日テレの専属でないころでしょう、たぶん。 
   で、いろいろゲストで来てて、とくに掛布と江川というのは現役時代のライバルで
   したから、すごくいい、響き合う解説してましたよね。 

堀  そうなんだ。 

広尾 でもあのとき前田は、ヒーローインタビューを拒否するんですよね。 

堀  そうそう、そう。 だからあの日に前田智徳というのは、すべて語りつくされてい
   る。あっはっはっ。(と笑って失言をごまかす)

           前田智徳天才の証明 [ 堀治喜 ]
        前田智徳天才の証明 [ 堀治喜 ]

広尾 あのとき、その手には乗らないわいという前田というのはよかったですよね。 
   「感動です!」とか、「(ミスを取り返せて)よかったです!」といわなかった。 
   あのときまだ、エラーの方を悔いていたわけでしょ。 

堀  野茂ポルンリンクル(第1回を参照)だよね。調子いいことはいわない。(笑 

広尾 (つまらない冗談は無視して)そういうの、いいですよね。 
   この感動を誰に伝えたいですかっていう、あのアナウンサーの質問は大っきらいで
   すね、ぼくは。 

司会 をっ、はっはっ。(と大笑い 
   ぼくも、たまにしますわ。 

広尾 ほっとけよ、って。 
   そのときぜひいってもらいたいのは、「隣の山田さんちで飼ってるプードルのメ
   リーちゃんに伝えたいです」っていってもらいたい。 

司会 あっは、はは。(吹き出す)

広尾 そうでもいえば、あんな質問はなくなるんじゃないかな。 

堀  でも、そういう感覚の観客ばっかじゃないとおもうけどね。(苦笑

司会 求めているであろう。そして、いわせたい。それはメディア人間のサガですかね。
   ぼくもいろいろインタビューとかしますけども、決まり文句ではないんですが、き
   のうからもね何度かきのうも(大野豊氏や木下富雄氏とか)いろいろな方にお話を
   うかがっている中で、じゃ最後にファンのみなさまにとか、締めのことばとして、
   つい出してしまうというのがあったりして。 

堀  そういえば、きのう(大野豊氏と木下富雄氏とのトークで)もありましたね。(笑 

司会 しましたしました。いまズキっとここに刺さりました。(と胸に手をやる)

広尾 「(選手は)明日も来てくれるかな!」とかいうんですよね。 

司会 そうですよねぇー。

広尾 そうじゃなくて「早く帰れ!」とでもいったほうがいいんじゃない。
   「さっさと帰れ!」とか。

堀  そんなことがゆるされない風土になっちゃってる。野球に限らずね。

広尾 せっかくね、パスを持って選手にインタビューできる権利を持っている記者も、な
   んでこんなつまらないことを聞くのか、っていうのがあるんですよ。

司会 なるほど。 

広尾 ちょっとシビアな話になりましたけど。

司会 いえいえ。この人だからこそ、よく聞いたねっていうのがあったらいい、と。

広尾 そうそう。本当のスポーツのアナウンサーというのは、それができるからね。 あ
   んまり野球ではいないですけど、相撲では優秀なアナウンサーというのはちゃん
   と見どころ聞きますよ。 
   たとえば変化ワザで勝ったお相撲さんがいるとして、「きょうは仕切り線の手前で
   仕切ってましたね」ということを聞く。
   お相撲さんは、おやっという顔をして、ああ、わかってるなという感じで、そこか
   ら話が深まったりするんですけど、野球の場合は、まずないね、それは。 

司会 ちょっと自分と照らし合わせながら、いまのお話を聞いておりますけれども…

堀  広尾さん、MCを解説してますね。(笑 

広尾 今度、MCはやりたいですけどね。出してくれるかどうかは別にして。

司会 MCでインタビュー? そのMCをやる立場というのは。 
   たとえば隣に作家の堀治喜さんがいらっしゃいますけど、そのインタビューをMC
   として聞いたりとかしてみたいということですか? 

広尾 いや、ぼくはインタビューして文章を書くことがすごく多いんで、自分でやるとき
   は、やっぱり同じように仕切ってしまうんですけどね。 
   でも、それやっちゃうと面白くないというのは(自分でも)わかりますよね。
   インタビューするときは、相手を気持ちよくさせるために、予定項に入れていくと
   いうのはあるでしょうけどね、テクニックとしてはね。 

司会 まあ、いろんな方にインタビューされて、その中からチョイスされる… 

広尾 そうそう。もちろんそうです。 

司会 それでひとつの本、かたちになるわけですけども… 

広尾 そうそう、きのうここに座られた長谷川(晶一)さんなんてのは、ぜったいにそれ
   をしないですよね、あの人は。
   菊地(選手)さんに聞いたけど、沈黙を怖れない作家っていうのね。(相手が)黙
   りこくっても平気だとしうの、あれすごいなとおもう。(第1回を参照)

   夏を赦す [ 長谷川晶一 ]
夏を赦す [ 長谷川晶一 ]

司会 をぉっ、はっはっ。 

広尾 ぼくは絶対にそれができなくて、先回りして、いろんなことばを紡いでしまうけ
   ど。
   ほんとに人の嫌がることを聞こうとしたら、そういないといかんのでしょうね。

司会 インタビュアーとしては、この沈黙というのは、ものすごく怖かったりするもんな
   んですけどね。 

広尾 ぼくも怖いですよ。

司会 うっわっはっ、はっ。

堀  「沈黙!」

司会 いま待ってたでしょ、沈黙を。

堀  おれは大丈夫よ、沈黙。(笑 
   10秒くらいやってみようか。

司会 やめてくださいよ、マイク、オフってしまいますからね。

堀  まあぼくの場合は、しゃべっても聞こえないから。(笑 
   沈黙といっしょのしゃべり。 

広尾 まあ、そんなところですね。(と困惑して話題を変えようと) 

司会 いま、インタビューを怖れてきているわけではないんですけども、このおふたりは
   このあとどういう会話をしていくんだろうと…。 
   堀さんが(広尾さんに)聞いてみたいといってたわりには…、もう解決?

広尾 あのね、ぼくは堀さんとは(東京の)ブックフェアでお隣同士になったりしたこと
   ありますけど、あんまり会話しませんもんね、堀さんってね。黙って座ってますよ
   ね?

堀  面倒くさい。(笑 

司会 ふっ、ふっ。

広尾 きょうはすごいしゃべるほうですよね。

堀  まあ、しゃべれといわれれば… 

司会 じぶんがしゃべると聞いて、はじめ隣にいてね、というお話だったんですけど、結
   局まわす役やらされてる。

広尾 それは素晴らしいですよ。ぼくとふたりだけだったら、どうなっていたかわかりま
   せんよ。 「最近腰痛くない?」とか、年寄りのグチになってたかも。 

堀  ぼくは沈黙を怖れないから。ふっ、ふ。 (そこにサイレンの音)

司会 このステージが炎上してるから。(笑

堀  すごいね、それにしても。ぼくらがしゃべり出したら豪雨はくるし、サイレンは
   ウーウーいうし。

司会 いろんなことが起きてますよ。 

広尾 (そんな喧騒をよそに、ひとり騒動を怖れない作家が)この位置から原爆ドームが
   見えるんやね。

司会 そうですね。あの旧市民球場があったときとかも、外野席から見えましたからね。

広尾 これ(ステージ)ちょうどセンターあたりの位置やから、原爆ドームを右手に見な
   がら野手は守っていたわけやね、山本浩二は。 

司会 うふ、そうですね。ライトスタンドの連中は、この球場越しに原爆ドームを見て
   育って来たという…。 

広尾 すごい話ですよね。 

司会 先ほどちょうど若杉(雅也・「世界の野球写真展」ブースを当日出展)さんの話が
   出ましたけれども、(前日のトークで)野球場全体を俯瞰するっていう、その空の
   景色も合わせて全部を見るっていう話がありましたけど、広島で市民球場があった
   時代にカープを楽しんでいた方々というのは、それが当たり前の光景として育って
   来たという人たちですよね。 

広尾 よく中継で、このアングルを抜いた画像って入りましたよね。 

司会 はい、ありました。よくご存知で。 
   (カープに限らず)各球場とか各チームとか、大阪、関西ご出身ということだから
   関西中心ということではなくて、いろいろなチームのデータとか印象に残ったこと
   とか記憶、記録されてたんですね。 

広尾 昔のとこばっかりで、今はもうないんよね、ぼくが行ってた球場って。

司会 昔あった球場というと? 

広尾 関西でいうと大阪球場。さっき聞いたら知らんていわれてショックだったんやけ
   ど。

司会 すんません。

広尾 大阪球場知らん人がいてるとはおもわなかったけどね。 
   で、大阪球場でしょ、日生球場、藤井寺球場。それから、もう川崎(球場)もない
   よね。 
 
           藤井寺

   それから西宮球場がないでしょ。 だから関西でいうと、いま甲子園とグリーンス
   タジアム、いまの、ほっともっと(フィールド神戸)ですね。 あと、わかさスタ
   ジアム、西京極球場と京セラドームくらいですかね。中モズ(球場)もなくなっ
   たし。 
   だから、ほんとに昔のションベン臭い野球場が、まったくなくなっちゃって。 神
   宮だけですね、そういう匂いがするのは。

司会 そういう雰囲気のある球場、と。 

広尾 座ってて、わびしい気持ちになる球場がなくなりましたよね。
   広島もそうでしたよね。

司会 旧市民球場は、ちょっとわびしいというか… 

広尾 なんとなく暗いようなね。 昔の中日球場もそうでしたね。
 

  
堀  沈黙しながら聞いてたんですけど、球場がションベン臭くなくなって来たのと、解
   説者の解説がつまらなくなって来たのとが重なるような気がする。 

広尾 いや、たぶんそうでしょ。

堀  解説がつまらなくなったせいもあるんだろうけど、あんまり観ないんですよ。
   観てられない。

広尾 放送を?

堀  うん。 

司会 ほーっ。 

堀  まあ、あんまり個人的なことはあれだけど、Rという放送局に某解説者がいるんで
   すけど、聞いてられないんですよね。語彙がないというか、空気が読めないという
   のかな、語りにリズムがないというか。 
   まあ人柄はいいらしくて、それで使われているのかもしれないけど、野球の中継で
   彼の解説はちょっと勘弁、という方がいるんてすよね。

   べつに腹立つわけじゃないんですよ。だけど観てられない。(これでもフォローは
   したつもりらしい) 

広尾 解説者がいないと間が持たないから、というんで居るような人もいますよね。

堀  野球場がションベン臭くなくなったかわりに、味も素っ気もない解説者が頻繁に顔
   を出す。 

広尾 広島もそうですか。 

堀  でもね、前言を否定するみたいだけど、これってぼくたちの世代感覚なんだよ。

広尾 あのー、人が入らない球場で、のんびりビール飲みながらヤジを楽しむみたいなの
   が昔の観戦のスタイルだったけど、いまは民族の祭典みたいでしょ、とにかく。 

堀  ふっ、ふっ。 

広尾 マスゲームかっ、て感じでワーってやってるじゃないですか。 あれをブログで攻
   撃したら、猛烈に炎上しましてね。お前は出てけっ!みたいになりましたけど。
   (笑 
   だけど今だに、ぼくは好きじゃないですね。 

堀  今はヤジを入れるスキがないじゃないですか。 

広尾 聞こえないよね。

堀  のべつ幕なし、鳴りものと喚声でね。 プレイが解説を通してプレイとして完結す
   るというのと同じで、スタンドの観客もつくってるわけじゃない、印象をね、間
   接的に。 
   そういう意味では、ゲームが面白くならなくなってきてるのかもしれない。 

広尾 野球で盛り上がる前に、自分たちが盛り上がってしまうから… 

司会 たしかに、野球を観に行くのか、応援を楽しみに行くのか… 

広尾 そういう人たちを否定しては野球の将来はないから… 
   カープ女子なんていうのは、ぼくはいいとおもいますけどね。 


司会 あれですよね、立ったり座ったりという応援スタイルっていうのは、またカープ
   の…

広尾 それから入ってでも、野球を好きになってくれればその方がいいしね。 

司会 楽しみ方はいろいろあるよ、というね。

広尾 でもぼくはウェーブが来ようが、風船飛ばそうが絶対にそれはしない。 

司会 なるほどー。(と終了予定時間を確認する)
   ということで、まあ野球本を書かれていらっしゃるおふたり、とくに「プロ野球解
   説者を解説する」という本を書かれた広尾さん… 

広尾 あのー、まだたくさん在庫がございますので、ぜひ。 

司会 おーっと、PR入りました。 

広尾 お買い上げいただければサインもさせていただきますし。 この雨の中来ていだい
   た記念に買っていただければとおもいます。

司会 はい、わかりました。 
   堀さん、解説はもうよろしいでしょうか。 

堀  自分が、なんかR局の解説者になったような気分。空気は読めてないし… 

司会 そういうのはどうなのかな、って観てた感じに自分がなってる?

広尾 まあ、味はありましたよ。

司会 もわっ、はっはっ。

堀  ションベンの味ですか? 

(そのとき、ふたたび土砂降りに)

司会 おふたりのお話、まさに水物だったということでしょうか、これをもちまして水入
   りでございます。 (完)
     

↑このページのトップヘ