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カープの奥さま
月刊ホームラン編集部
ザ メディアジョン
2011-04-05


カープ黄金時代に、個性派ぞろいの投手陣を“女房役”として支えた達川光男氏の奥様が亡くなられたとか。

ご冥福をお祈りいたします。 

プロ野球解説者を解説する
プロ野球解説者を解説する

本日は広島野球ブックフェアのトーク第2弾、「『プロ野球解説者を解説する』を解説する」のパート2をお送りいたします。  

 ゲスト 広尾 晃氏(「プロ野球解説者を解説する」著者)  
 ホスト 堀 治喜(広島野球ブックフェア実行委員会) 
 司 会 渡部裕之氏 

〈前回のつづき〉

堀  ぼくも広尾さんのこの本が出たときに読ませていただいたんですけど、まあ気になる
   存在なんだけど、そんなに注意して調べるようなことはしなかった。
   だけどあの本読んで、やっぱり解説者が野球だったりゲームだったり、ひとつのプレ
   イを印象づけてるわけですよね。 それをあらためて感じましたよ。

広尾 ありがとうございます。
   で、お返しするわけじゃないんですけどね。(と、ごそごそ何かを取り出す)

司会 おーっと、出ましたね。
前田智徳天才の証明 [ 堀治喜 ]
前田智徳天才の証明 [ 堀治喜 ]

広尾 (「天才の証明 前田智徳」を掲げて)堀さんのね、この本はね、もう広島市民、一
   家に1冊はぜったいにないといかん本かなと。

司会 家庭の医学か、もしくは前田智徳か、と。

広尾 家庭の医学はなくても、前田智徳はいるんじゃないの、っていうのがありますよ。
   あのー、前田智徳っていうバッターは、すごくいいバッターだってみんないうんです
   けど、どこがいいのか、どこが悪いのかって、そのネガティブな部分をしっかり書い
   ておられるから、すごいな、と。
   つまりバッティングができなければ、ひじょうに困った人やということですよね?

堀  そこでうなずくわけにはいかないんだけど、そういうことが書いてあったのかな。
   (苦笑

広尾 だからイチローなんかとおんなじで、相手が喜ぶようなことがいえないキャラクター
   じゃないですか。そこらが浮き彫りにされてて、すごく面白かったですね。

堀  そういう意味でいうと、引退前の前田智徳なんですね。

広尾 引退してからは、ちがうん?

堀  引退してからは、意外に他人が喜ぶことを…

広尾 それはあれですね、バッティングからトークに…

堀  そう、変えた。だから、すごい器用なんだよ、きっと。 本人も他人に気をつかってい
   るようでは自分は打者というか、野球選手として生き残れないというおもいがずっと
   あったみたいなんですよね。

広尾 そこんところが、引退して180度変わったんやね。

堀  バットの代わりにマイクを持ったらどうすべきなのかというのを、やっぱり彼は知っ
   てるんだよね。

広尾 やっぱり本当の大物というのは人の喜ぶことを先回りしていわないっていうのがあっ
   て、ぼくはそういうタイプは好きですよね。解説者としてというより、(いろいろふ
   くめた)キャラクターとしてね。
   解説者の本にも書きましたけど、野茂英雄さん(なぜか急に「さん」付けに)が面白
   いですよ。

司会 解説が…?

広尾 解説ではないですけど。

司会 解説では、ない?

広尾 感想をいいに来てるんですよ、あの人、わざわざ。ラジオとかの放送で。
   去年でしたか、オリックスの松葉というピッチャーが好投したんですよ。それで、そ
   のあとインタビューで「明日もがんばりますから来てください」みたいなことをいう
   のね。

司会 なるほど。まあまあ、よくね選手のインタビューの後の締めなんかでは、よくそうい
   いますよね。

広尾 「ルーキーの松葉について、野茂さんどうですか?」って聞いたら、新人やのにうま
   いこといいますね。ぼくはできませんといったの。それ、素晴らしいと。

司会 ほんとに自分の率直な感想をいいましたね、それは。

広尾 感想ですね。野茂さんは感想だけですね。
野茂英雄日米の野球をどう変えたか-【電子書籍】
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司会 感想派とか、いろんなジャンルの方がいる?

広尾 やっぱりね、現役時代どんなポジションにいたかによって解説の内容がずいぶんとか
   わるんですよ。

司会 実際の経験値というのは、実際にプレイしたところからの視野とか、どうしてもそう
   なりますよね。

広尾 だから本当の意味の本格的な解説者というのは、だいたいキャッチャーですよね。

司会 あー、なるほど。

広尾 古田敦也さん(彼もなぜか「さん」付け)なんか、すごいでしょ。

司会 たしかに。

広尾 古田さんなんかの解説ですごいとおもうのは、たとえば元のチームメイトですけど、
   ヤクルトの宮本慎也が、たとえばワンアウト一、二塁とかのときに「見てください」
   と。「ショートのポジションの前でゴミを拾う動作をするでしょ。あれは、ここに飛
   んで来いということで挑発してるんだ」と。 てなことをいえるのは、やっぱりあの人
   ですよね。

司会 なるほど。
フルタの方程式 [ 古田敦也 ]
フルタの方程式 [ 古田敦也 ]

広尾 だけどそれを川藤(幸三)さんがいうと、どうなるか。 あの人は代打しかやってない
   人ですから。
   もともと(高校時代は)ピッチャーで、内野手に変わって、外野に行って、1年だけ
   レギュラーっぽくなって、失敗して、そのとき金田正泰という監督に、「お前はこれ
   から心の支えになれ」と。
   つまり戦力としては認めないというふうにいわれて、そっからはベンチのヤジ将軍に
   なるんですけど…

司会 切り替えたんですね。

広尾 だからあの人の解説は、根性論でしかない。

司会 ヤジ将軍だった経験値からの解説しかできない?

広尾 それしかないから、だから「根性やね」しかいわない。

司会 ぅわっ、はっはっ。

広尾 それはそれでいいんですよ。
   それに大リーグに関して知識ないんですよ。ぜんぜん知らなくて。

司会 解説者になったからといって勉強したりというのもなしで?

広尾 阪神タイガースに新外国人ゴメスが来ました。元レッドソックスでそこそこ…、とア
   ナウンサーがほめるようなことをいうたら、「そんなにいいんなら、なんでこんなと
   ころに来たちゅうねん!」いうんですよ。

司会 すいません、お家でお茶の間でテレビ観ながらダベってるわけじゃないんですけど。

広尾 まあ似たようなもんですよね。でも、それでダメかというと、それはそれでOKとい
   うかね。

司会 それが人柄でゆるされるというか…

広尾 それがどっかのチームの本格的にキャプテンやってたような選手がいっちゃダメです
   よ。あの人だからゆるされるけどね。

司会 なるほど。
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広尾 広島は、そういう人が多いですよね。あの人ならゆるせる、という人。

堀  みんな、ゆるされてるんじゃないかな。(笑

広尾 昔、金山次郎さんていう、ほんとうに広島が負け出すとすごい機嫌が悪くなってね、
   もういまさらいうてもどうにもならんけどねっ、ていうのが口癖なんですよ。
   (カープが負け出すと)だんだんぶっきらぼうになってね。

堀  あのー、広島の解説で、ちょっと首を傾げざるをえないのがね、ペナントの順位予想
   するじゃない。

司会 はい。

堀  まあ、いまのカープは可能性が当然あるわけだけど、みんな優勝にするんだよね。

司会 まあ、まあね。

堀  で、正直に、いや優勝には届かない、よくて2位じゃないかなっていった瞬間に白い
   目で見るというか、スタジオが凍りついたような感じになるんだよね。解説者の意見
   やことばを封じるような空気。

広尾 それはローカルだからしょうがない。中日ドラゴンズだってそうですよね。

堀  そうはいいながら、たとえば機会があって全国ネットに出てもそうでしょ。 まあ達川
   さんはゆるせるけどね、さっきの話じゃないけど。あの人が勢いでいってるからいい
   か、って。(笑

広尾 達川さんは、飛距離が大きいですよね。

堀  飛距離?

広尾 ことばの飛距離というか、とんでもないことばが出てくる。 ぼくがいまでも一番覚え
   ているのは「明治大学の人は独特のお尻の振り方をする」っていうんですよ。
   高田(繁)さんもそうだった、だれだれもそうだったってね。 ありえないでしょ、そ
   んなこという人。そういうことを平気でいうのがね。

司会 見方というか、ことばのチョイスというか…

広尾 今おもいついたことをいってるだけ、という。それが素晴らしい。あの人は、ゆるさ
   れるんですよね。
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堀  飛距離ということばでおもい出したんだけど、この「プロ野球解説者を解説する」と
   いう本も、ときどき飛びますよね。ちょっと異質にことばが、ぽんっと入ってくる。
   あるインターバルで。 ぼくだったらたぶん使わない、出ないことばが出てくるんです
   よね。
   それを以前読んだときにチェックしてみたんだけど、ちょっと他の野球がらみの本に
   は出てこない。

広尾 ぼく、どっちかというと落語とか、そっちの方のことやってたから。

司会 大阪出身だったりとか…?(といいながら、にわかに降り出した雨に目がいく)
   おふたりの話がまさに風雲急を告げる感じになったところで、お天気まで風雲急を告
   げて来ましたけども…

(土砂降りになって、ステージ前から逃げるように観客が待避する)

広尾 若杉さんが大変そうですね、写真。(と「世界の野球写真展」ブースの写真パネルを
   あわててテント内に撤収しはじめた若杉氏を気遣って)

堀  お前らいい加減なことしゃべるんじゃねーぞ、って天が怒ってる。(苦笑

                     (第2回 了) 

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広島野球ブックフェアで始球式をしてくれた大野豊氏の著書。長年バッテリーを組んだ達川光男氏との共著だ。

以前紹介した「過去にあらがう」は、前田智徳、石井啄朗、鈴川卓也という、異色といえば異色、なるほどといえばなるほどなキャスティングだった。

この本は投手と捕手のバッテリーの共著。
ここにこうして提示されてみれば「なるほど」とうなずけるものの、意外にめずらしい構成ではないだろうか。

気心の知れたふたりが語り合うトーク。
テレビのバラエティーではもはや定番になっているスタイルだが、それを活字でチャレンジしてみて成功した例といえそうだ。

リーグ優勝、そして日本一も経験したバッテリーは、それこそしびれるような緊張の時間と、ありあまる達成感を共有してきた。
そんなエピソードの数々が、ざっくばらんな会話からつぎつぎによみがえってくる。
ひとつのエピソードが、またあらたなエピソードをよみがえらせ、それがまたおもわぬ記憶につながっていく…

編集者が面と向かってかしこまったインタビューをするのでは引きだせないであろう逸話が、つぎからつぎへと読者の眼前に投げこまれてくる。いままで語られたことのなかったカープが、行間にいくつもちりばめられているのだ。

それにしても達川捕手の「ささやき戦術」や、話が一人歩きしてしまっていたというヤクルトスワローズの主砲、大杉選手に対する「石ころ発言」の真実は、こうした書籍ではないときちんと語れないものだろう。

ここに登場する人物は実名。状況や場面はそのひとつひとつが具体的で、読み進めていって腑に落ちることばかり。ざっくばらんな対話調の進行も悪くない。

なかで笑えたエピソードのひとつが、大野投手の「ニューボール嫌い」のくだり。
とにかくまっさらなボールがきらいで、審判がこねてくれたボールがきれてニューボールが渡されると閉口したという。

すべってまともに投げられないからと、それを達川捕手が一球はずさせてこねて返したり、大野投手がわざと一塁に牽制を投げて小早川毅彦、長内孝選手がこねて渡したりというやりとりがあったらしい。

そういえば …、ブックフェアの始球式にも大野さんは投げ慣れたボールを持参していましたっけ。
イベントの始球式とはいえきちんと制球して投げたいという、彼の誠実さがあらためておもいかえされた。

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